ストロ−の限界


 やっぱりビ−ルはジョッキで飲むのが一番旨い。無数の水滴と溢れる泡、見ただけで体中の汗がス−ッと引いていく。そしてグビッグビッと一気に飲み干す。夏の夜、これほど旨い飲み物はない。

 と言ってみたものの、実はジョッキでビ−ルを飲んだことなど一度もない。なぜなら僕 は重度の障害者であり、ジョッキはおろかグラスさえ持てず、何を飲むのにもストロ−を使っているからだ。それにしてもストロ−で飲むビ−ルは苦い。しかしある時まで、その苦さがビ−ルの旨さだと思っていたのである

 その日、僕はストロ−を忘れた。仕方なく友達にグラスから飲ませてもらったのだが、一口喉を通して思わず叫んでしまった。

「こっ、これがビ−ルなのか」

しかもいくらでも飲めるではないか。ストロ−でビ−ルを飲むと早く酔うとは聞いていた。が、これほど違うとは思ってもみなかった。僕はこの時、ストロ−の限界をあらためて思い知らされたのである。

 誰が発明したかは知らないが、ストロ−というのは本当に便利なものだと思う。体の不自由な者でも簡単に何でも飲めるのだから。だけど、熱いお茶は火傷するし、ワインなんかまずくて飲めやしない。やはりその飲み物に応じた飲み方をするのが一番のようだ。

 真夏はビ−ル。なんとか自分で飲めるビールジョッキを考案できないものだろうか。


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