不随意運動の利用

「ひのみねかわらばん」より



 不随意運動。
−小児マヒの特長の一つで、自分の意思に関係なく体の一部が勝手に動くこと。手、足、首が震えるように動き続けるものもあれば、びっくりしたように跳ね上がるときもある。後者の場合、たまたま近くにいると、アッパ−カットをくらわされることがあるので要注意−。
 医学辞典にこう書いてあるかどうかは知らないが、僕らにとってやっかいなものであることにはちがいない。
 そんな不随意運動も考えようによっては利用できないことはない。手足の震えも突然の跳ね上がりも、その動きにあったものに利用すればいいのだ。例えば絵だ。細かいきれいな絵を描くのは難しいが、震えによる面白いタッチや跳ね上がりで鋭い線が引けることがある。それを生かしながら描いていけばプロも真っ青の面白い絵が描ける。だが、この「生かしながら描いていく」というのが難しい。それができたら美術部員はみな名画伯になれる。
 そして、僕の場合は障害が軽いせいか、この不随意運動をある程度コントロ−ル出来る。かゆい所に爪をあて、そこで不随意運動を起こすと自動的にかけるという具合である。それから、ごはんの残りをさらえる時もこれを利用する。肘から先の震えを肩でコントロ−ルしてやると面白いようにごはんがさらえられる。歯を磨くときも同じ。これはまだ研究段階なのだが、力の加減さえ首でコントロ−ル出来るようになれば何とか使いものになりそうだ。不随意運動の起こし方、止め方にも極意がある。極意といっても簡単なことだ。ちょっと力を入れてやると震えはじめるし、力を抜いてやるか、逆にもっと力を入れて何かにさわると震えは止まるのである。
 けれど、ここでまた疑問がうかぶ。こんなふうに自在にコントロ−ルできる僕の左手の不随意運動は、不随意運動といえるのだろうか。園長先生教えてください。


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