先日、自治会ネットの小峰さんから手紙が届きました。障害者の外出について何か書いてほしいという内容の手紙でした。またかと思いました。というのは、このところあちこちからの原稿依頼が続いていたからです。しかもその全てが無報酬。「まぁ、お世話になっている人たちからの依頼だから仕方ないか」と思いつつ仕上げ、ポストに投函した直後に部屋に戻ると届いていたものだがら、もうガックリ。でもまぁ、外出についてならみんなに知らせたいこともいっぱいあるし、字数制限もないようだから書くことにしました。少し長いレポートになるかもしれませんが、我慢して付き合ってください。
1.施設の行事としての外出について
【行き先別外出】
うちの施設では、毎年「行き先別外出」というのを実施しています。「行き先別外出」というのは、あらかじめ設定されたいくつかの日帰りコースの中からどれか一つを友達と相談して選ぶことが出来るというどこの施設でもやっていそうな外出システムで、50人の入園者(利用者と呼ぶのが正しいようですが、そう呼ぶのはなんか上辺だけ繕ってるみたいで嫌いです)を8班に分け、月1回ぐらいのペースで行っています。入園者にはそれぞれ職員が1対1で付き添うので、1班の随行人数は10人から14人。移動手段は主に公用車(ライトバン)2台。行楽地でのんびりしたり、買い物を楽しんだり、劇場に映画を見に行ったり、殆どの入園者が楽しみにしている行事です。というのは、入園者の外出機会は非常に少なく、1年の内でこれ1回しか外出しないという人もいるからです。それだけにせっかくの外出を出来るだけ楽しんで貰おうと、外出コースの設定と班編制には大変気を使う。実は、これらを一手に引き受けて調整しているのがボクなんです。
50人もいる中でなぜボクかというと、ボクが自治会の中で行事関係をずっと担当しているということもありますが、街の情報、車いすでも遊べる場所の情報、障害者用トイレの有無、その他いろんな情報をボクが一番持っているからです。これらの情報と入園者のニーズを総合して外出コースを設定しているわけですが、その中で一番頭を悩ますのが「食事の場所」。行楽地などでは比較的大きなレストランがあり団体で行っても大丈夫なのですが、街の中にはそんな所は非常に少ない。「お寿司屋さんに行きたい」と言われてもそんな大きなお寿司屋さんなんてあるわけないんですね。お寿司屋さんだけじゃーありません。雑誌で紹介されているような専門店はどことも狭い。車いすが2・3台入れば身動きできなくなります。
そこで思いついたのがホテルの中のレストラン。結構いろんな専門店が入っていて車いすでも動きやすい。雨の日だって濡れずに行けるし、なんたって「ホテルでお食事」という響きがリッチで良いじゃないですか。
【自由を抑圧している施設型共産主義】
で、早速担当職員にその案を持っていきました。でもあまりいい顔はしません。こんなにいい条件がそろっているのになぜ?と問うと、予算内で食べられるものがあるかなぁって言うんです。施設が用意してくれる昼食の予算は1500円なんですが、それまでだって予算オーバーしたら自分で払っていたんです。だから「みんなお金持ってるんだから、そういうコースが一つぐらいあってもいいじゃない!」と食い下がっていました。すると別の職員が「私ら仕事に行ってまでそんな余分なお金は払いたくないよ。それにお金を持っていない入園者もいるんだからその人らのことも考えてあげ!」と話しに入ってきたんです。前半は「なるほど」と納得しました。ちょっとケチ臭いけど職員の本音だと思います。ボクだってそう思うかもしれない。でも後半はどうも納得できません。別にお金を持っていない人は外出させないと言ってるわけじゃないんです。他にもコースはたくさんあるんだし、ホテルのメニューだって高いものばかりじゃないはずです。もう大人なんだから自分の体の具合や懐具合、その他いろんな条件や情報を総合的に考えて自己決定が出来なければいけないはずでしょ。一般社会では当然ですよね。どうも過保護が過ぎるように思えてならないんです。「だって理解できない人もいるんだから」と言うけれど、「それを理解させるのもあなたたちの仕事じゃない」といいたかったですね。でもこれは非常に難しい事です。だからボクらの方を押さえてみんな平等のように見せかけて丸く収めようとする。一見道徳的で正論のように見えるのですが、これは明らかに管理する側の言い分であり常套手段なんです。こうした方が絶対にまとめ易いんですから。でも、管理される側から見ればどう考えても迷惑です。それだけ自由が制限されるのですから。「何言ってるの、みんな平等でいいじゃない」って言う人がいるかもしれないけれど、これは断じて平等じゃない。必ずそれを管理している人が上にいるんですから。現代社会の中で完全なる平等なんて有り得ないんです。一時マルクス主義とかレーニン主義だとかがいかにも理想郷のように語られていた時代があったけど、ふたを開けてみれば支配者にいいように利用されて独裁を許してしまったじゃないですか。その象徴のソビエトもベルリンの壁ももう崩壊してしまっているんです。それなのに日本ではやたら「平等」とか「公平」だとか耳障りのいい言葉を使って上辺だけの平等を叫びまくっている人たちがいる。「日本型共産主義」とよく言われているんだけど、施設などでは特にその傾向が強いから「施設型共産主義」と名付けることにします。
この「施設型共産主義」だってある部分ではすごくいいと思うんです。だけど、レベルの一番低いところに揃えようとするところが気に入らない。管理する側にとってはこれが一番管理しやすいんだろうけど、中にいる者は抑圧を感じるだけでなく「やる気」を失ってしまうんです。いくら頑張ったところでみんな同じなんだから。やっぱりボクは共産主義は性に合わないですね。
【ホテル利用に至る経緯と戦略】
なんか話しがすごく違いところに逸れてしまったので元に戻しますね。ホテルでの食事を反対された続きです。一応その場は引き上げてきました。上のように共産主義がどうのこうの言おうものなら、ますます態度を固くされて「こいつは要注意」と睨まれるだけです。施設でうまくやっていくコツは「みんなと仲良く」が基本中の基本ですから。
といって諦めたわけじゃーないですよ。ストレートがだめならジャブだってフックだって必殺のアッパーだってあるんです。フットワークを使った駆け引きも重要です。で、具体的にどうしたかというと、使えそうなシティーホテルやリゾートホテルに片っ端から電話してみたんです。車椅子で動きやすいかとか団体でも大丈夫かとか、1500円以内のメニューにはどんなものがあるかとか・・・。するとどのホテルも親切に対応してくれたし、お昼のメニューは意外と安いんですね。予約をすれば一部屋貸し切りにしてもいいという所もありましたし、予算にあわせて特別メニューも出来ますしサービスしますからぜひ来てくださいと言ってくれた所もありました。初めは「OH!素晴らしい」なんてびっくりしたり喜んだりしてましたが、でも考えてみれば平日の昼間のホテルって暇なんですよね。だから値段を安くしたりサービスをよくして少しでもお客さんを集めたいわけです。それが障害者だろうとなんだろうと関係ないんです。元々受け皿はあるわけですから。
そしてこれらの資料を持ってもう一度交渉に行きました。するとすんなりOK(実は話しのわかる上司に前もって根回ししていたんですが)。こうなると、うちの職員は実に良く動いてくれるんです。実際にホテルに行って下見をしたりメニューを貰ってきてくれたり、話しはトントン拍子に進んであっというまに実現しました。今では人気コースの一つです。要するに職員にだって「入園者にいろんな経験をさせてあげたい」って言う気持ちはあるはずなんです。でも責任問題とかいろんなしがらみの中で保守的にならざる得ない所がある。だから初めは手強い敵でもちょっとのきっかけで頼もしい見方になってくれたりもするんです。
「JRを使ってみよう」という案を出したときもそうでした。これはボクもあまり自信がなかったので時期が来るまで待つ事にしていると、2年後、職員の方から「やってみよう」と言ってきました。多分どこかの研究大会か何かで聞いてきたんだろうけど、そんなことはどうでもいいんです。職員から「よし、よろう!」という言葉さえ聞ければ8割がた成功したようなもんなんですから。とにかくボクの仕事は入園者のニーズを聞き、新しいアイデアによる利用可能なコースを設定して職員を説得する事なんです。新しいアイデアと言っても奇抜なアイデアじゃーありませんよ。
映画館での映画鑑賞とか葡萄狩りとか、普通の人が当たり前にしている事で多くの入園者が経験したことがないこと(うちには中途障害が少なく、みんな重度だから未経験なことが多い)です。「ビアガーデンで一杯」なんてのも面白いと思うのですが、勤務体制から考えて難しいかなと思いつつ「昼間からやっている所を探す」とか職員を口説き落とす戦略を練っているところです。
2.施設での個人の外出について
そのためにはボク自信が街に出ていって情報を仕入れて来なければいけません。今度は、ボクや他の入園者が個人的にどのように外出しているかをお話します。
【外出願いの抜け穴】
うちの施設は基本的に外出外泊は自由なんです。ただし、きちんとした付き添いがいて、所定の外出願いに時間と行き先と付き添い人の名前を書かなければいけません。この外出願いについては、よく「面倒くさい」だとか「プライバシーの侵害」だとかいう声が聞こえたりするんだけど、ボクはそうは思わない。うちの施設が特別手続きが簡単なのかもしれないけれど、外出直前に提出すればいいだけなんだもん。家族に「ちょっとどこそこまで誰それと行ってくる。帰りは多分〜時になると思う。食事は食べてくるから」と言ってるのとイメージ的に変わらないんです。それに、この外出願いというものは結構いい加減。考えてもみてください。一歩外に出てしまえば行き先なんて誰にも分からないし、帰園時間だって「ちょっと遅くなります」と電話一本しておけばいくらでも引き伸ばせるんですから。知られたくなかったら正直に書く必要ないわけです(別に嘘を書く必要もないから正直に書いてますけど・・・)。門限だって決まっているわけじゃーない。今までに午前様を2回ほどしてしまったけれど別に何にも言われませんでした。まぁ滅多にない事ですしね、大目に見てくれているんだと思いますが・・・。
外出手段としては、主に母の車に乗せていってもらう事が多いですね。幸い母はフリーの仕事をしているので比較的自由に動けるんです。目的地でボクを降ろした後母はその付近の客回りに行きます。その間にボクは自分のやりたい事をする。外出願いの盲点を突いた裏技の一つです。その他、友人や知人が送り迎えしてくれる事も多いです。リフト付きタクシーを使う事もあります。この時は出来るだけ大勢を誘います。みんなで割り勘にすれば安く付くからです。バスは車椅子のボクにはちょっと無理ですね。鉄道は使えなくはないんだけど、やはりドアtoドアが便利です。
こんなふうに規則の上では比較的簡単に外出できます。けれど実際に頻繁に外出しているのは、ボクを含め2〜3人。時々タクシーを呼んで出ていっているのが4〜5人。あと近所を散歩したり買い物に出かけたりしているのが5〜6人ぐらいってところでしょうか。みんな外出が嫌いなわけじゃーないんですよ。その証拠に家族が面会に来ると必ず出ていっていますから。でも家族だってしょっちゅう来られるわけはない。他に連れて出てくれる人がいないから当然外出の回数は少なくなるわけです。だから、年に数回の寮母さんとの散歩をみんな楽しみにしている。結局、付き添い人を確保出来るかどうかというのが大きなキーポイントになっているみたいです。
今回は一応ここまでにしておきます。次回は、付き添いがいらない「単独外出の解禁」へ向けての交渉の過程と、アメリカ・イギリス両国での体験および日本の未来への希望なんかを書きたいと思っています。どうぞお楽しみに! |