アメリカツアーに参加して

日赤機関誌「?」原稿


 僕は去年の9月、一週間アメリカに行ってきました。研修でも招待でもなく、ただの観光でです。日本交通公社が募集していた「車イスで見るアメリカ・ウエストコ−スト7」というのに参加させてもらったのです。参加者は全員で8人、障害者が4人とその介助者が4人です。友達どうしがペアを組んでいる組もあれば、ご夫婦で来ている人もいました。僕とペアを組んだのは、友達が推薦してくれた19歳の男の子です。

 そもそも僕がこのツア−に参加するきっかけになったのは、「いっしょにアメリカに行こう」という友達からの誘いでした。幼い時からひのみねにお世話になり、旅行といえば、子供の頃の家族旅行と修学旅行しか経験がなく、「いつかは一人旅を」という夢を持っていながら、自分が海外旅行に行くなんて考えてもみなかった僕は、ツア−のパンフレットを見て「これは夢に向かって一歩前進するチャンスかもしれない」と思い、また、このチャンスを逃したら海外なんて二度と行けないような気がして、ツア−に参加することに決めました。

 しかし、海外旅行が初めてならば、飛行機に乗るのも初めて。もちろん知らない人に混じって旅行するのも初めてです。口では、「ADAのアメリカじゃ、なんとかなるわ。それに車イスのツア−やけん、それなりに考えてくれとうはずやし、いけるいけるなぁ−んも心配ないわ」と言ってても、不安がなかったわけはありません。「飛行機の中でのトイレは大丈夫だろうか」とか、「うまく皆の中に溶け込んでいけるだろうか」などと心配事は次から次へと浮かんできます。また、それと同時に期待も大きく膨らんでいきました。「アメリカは福祉も進んでいるというけれど、どこまで進んでるんだろうか、食べ物はどんなのが出てくるんだろう、外人とのコミュニケ−ションは?」出発の日が近づくにしたがって、いろんなことが頭の中をグルグル回る僕でした。でも心配していたような事は何もなく、とても楽しい旅行でした。

 アメリカは思ったとおり、いい国でした。なんといっても、広い、大きい、でかい、というのが第一印象です。砂漠の中を何車線もある道路がまっすぐドドドッて通っているようなスケ−ルのでかい国でした。アメリカ人もみんな陽気で楽しい人ばかりでした。行きの飛行機の中でスチュワ−デスさんに「ナイス・スマイル・ボ−イ」と言われて気を良くしていたこともありますが、行く先々で親切にしてくれたり、ジョークで笑わせてくれたので、すぐにアメリカ人が好きになってしまいました。

 障害者に対する配慮も大変よく行き届いていました。ユニバ−サルスタジオもディズニ−ランドも色んな設備がちゃんと整っているし、敷地内を専用の車で送り迎えしてくれたりもします。街にも段差はありません。店の中にはエレベ−タ−はもちろん、少し高くなっている所にはスロ−プかリフトがあって、そこへ行くと店員さんがサッと現われ、上がるのを手伝ってくれます。また、バ−トと呼ばれるサンフランシスコの地下鉄は、ホ−ムと車両の段差がなく、乳母車でも自転車でも乗ることが出来ます。そんなアメリカの街を僕等はリフトバスで移動しながら観光してきたのです。

 しかし、そうは言ってもアメリカだってADAができてまだ一年と少し。まだまだ狭い店も多く、リフトバスもそれほど普及していません。期待が大きかっただけにちょっと拍子抜けしたこともありましたが、これからどんどん良くなっていくだろうなということははっきりと感じとれました。そして、そうなることが単に障害者のためでなく、老人や子供、引いては全ての人たちのためであるということに気付いた人がたくさんいるということもです。

 そんなアメリカだから、食事の時など皆が集まれば、どうしてもこういう福祉の話しが多く出てきます。自分たちの県はどうだとか、こんな経験をしたことがあるとか、たいていの場合あまりよくないことです。目の前でアメリカのいいところを次から次へと見せられ、カルチャ−ショックのようなものを受けていたようでした。

 でも、よく考えてみると日本の福祉もまんざら捨てたもんじゃありません。そりや〜、アメリカと比べると、赤ん坊みたいなものだけど、十年前、二十年前からみると格段の差でよくなっていると思います。今回の旅行でも、徳島から成田への行き帰り、そう感じたことがいっぱいありました。羽田空港では、タラップでは降りられないので代わりにリフトカ−でそのままゲ−トまで送ってくれるし、雨でリフトカ−が使えなければ空港の人がおぶってタラップを上ってくれました。羽田から成田へのリムジンバスでもそうです。荷物係りの人が掻き上げて乗せてくれる上、運賃は半額です。そのほかにもいろいろなところで、いろんな親切を受けました。

 今回の旅行で、アメリカはもちろんのこと日本でも障害者のための設備が大分整ってきているなということと、障害者に対する見方や接し方が変わってきたなということを肌で感じることができました。これからだってアメリカも日本も障害者にとって生活しやすい環境にどんどん近づいていくと思います。ただアメリカと日本の違いはそのスピ−ドです。アメリカの障害者福祉はリハビリテ−ション法、ADA等によって急激に進歩してきました。それはアメリカの障害者達が自分達の権利を勝ち取ろうと戦ってきたからです。大統領への陳情書も書きました。一ヵ月間の座り込みもやりました。そして何よりも全ての障害者が家の中で隠ることなく、どんどん外へ出ていったことがアメリカの福祉がここまで進んできた基になっているように思うのです。

 車イスで一人街に出ていけば、どんなに頑張ったところで他人の手を借りなければならない場合が一度や二度でてきます。そんな時は通りすがりの人でも積極的に協力を求めていくべきだと思います。そうすることによって協力してもらった人にも障害者と接するチャンスが与えられるからです。健常者の中にはまだまだ障害者と接したことがないという人が少なくありません。そんな人たちに障害者を理解してもらうには、障害者と健常者が接し合う機会をできるだけ多く作ることが大切だと思います。そしてその最も手っ取り早く簡単にできる方法が、障害者がたくさん外へ出ていって積極的に協力を求めていくことだと思うのです。

 障害者の家族や施設の職員の中には「一人で外へ行くのは危ないわ、車も多いし道路も整備されてないけんな」と言う人がいます。けれど、日本の道は外国の道と比べてもそんなに危ないことはないと思います。むしろ治安がしっかりしている分、安全かも知れません。それに、アメリカの歩道にはガタガタするところが以外とたくさんあります。しかも、車道と歩道の段差はなくしてあるものの角度が急で少し恐いなと思ったほどです。けれど向こうの人達は平気で車イスを走らせていました。見ていると本当に危なっかしく思いますが、彼らにとってはそれが自然なのです。

 今回の旅行で、僕はいろんなことを見て、聞いて、そして自らも貴重な体験をいっぱいすることができました。なかでも、障害者が積極的に外へ出ていくことが、障害者も健常者も老人も子供もみんなが楽しく自然に生活できるノーマライの理想の社会を目指していく上でどうしても必要だということを再確認できたことは大きな収穫です。二度と行けないかもしれない海外旅行。一時は行くのをやめようかと思ったこともあったけど、思い切って行ってきて本当によかったです。


ご感想をお聞かせください。

tetu文庫 目録に戻る

ホームに戻る